朝、登校して靴を履き替えようと靴箱を開けると、そこには木彫りの熊が鎮座していた。
私はぽかんと口をあけてそれをじっと眺めていると、その力強い熊には無骨にリボンが結ばれていることに気づいた。
そして、はっと思い当たる。
先週、テニス部から、もう何度目になるかわからない呼び出しを受けた時のことだ。
保健委員の私は、テニス部の子なんかが怪我をしたりハードーワークで倒れたりするたびに呼び出される。特に3年が引退して、2年生の赤也が部長になってからは、彼は後輩のしごき方の調整ができないのか、私が呼び出されることが多くてうんざりしていたところ。
で、さすがに先週はちょっと腹が立って、捨て台詞を残して来たんだった。
『もー、毎回毎回呼び出される方の身にもなってよ! 来週の私の誕生日には相当に期待してるからね!』
今日は私の誕生日……。
まさか皆が真に受けてるとは思わないいけど、このビミョウなセンスの木彫りの熊……。
思い当たるとしたら一人しかいない……。
私は、その小さいクセにずっしり重たい木彫りの熊を手にしたまま、自分の教室に行く前に隣の教室に顔を出した。
「真田ー、おはよう! もしかして、これ、真田がくれた? ありがと」
当然私より先に登校している真田は、私がそう言って木彫りの熊を掲げると、ぎゅっと不機嫌そうに眉間にしわを寄せた顔のまま廊下までやってきて腕組みをして私を睨む。
「知らんな」
私は思わず吹き出してしまいそうになる。知らんって言われても、こんなのくれるのって真田くらいしか思い当たらないんだけど。
「ええ〜、そうなの? 真田じゃないの? これ、なんかすっごくいいモノみたいだしカッコいい熊だし、こういうの選んでくれるのってきっと真田しかいないって思ったんだけど、違うんだ……」
そう言って、隣の自分の教室に向かおうとすると、真田がモゴモゴと私を呼び止める。
「ああ、それは確かに名のある彫り師の作の物……と見える。大事にした方がいいと思うぞ」
私は我慢できなくて、くくっと笑ってしまった。
「うん、大事にする。ありがとね、真田」
そう言うと、真田はまたモゴモゴと珍しく言葉につまったまま。
Next