モジモジサバイバル with 四天宝寺中


救出!


 スイカ割りをして魚を焼いて食べて、みんなでワイワイやってたけど、夕方になるとさすがに本格的に心細くなってきた。
 私たちは、誰からともなしに海の方を眺めるようになる。すると、沖の方になにやら豆粒のような陰が見えた。
 それは、だんだんその形をはっきりさせる。
 船だ。
 目を凝らしているとそれはどんどん大きくなり、私たちは入り江に駆け寄る。
「お前ら、マイナス100コケシやで! ハッ、マイナスや!」
 船から飛び降りてきたのはオサムちゃんだった。
「オサムちゃーん!」 
 全員で叫びながら走った。
「おうおう。お前ら、どうしようもないな。小石川がな、朝にお前らがものすごい勢いで船を漕いで沖の方に消えていった言うやんか。探したで。てか、小石川も連れてったれや!」
 笑いながら言って、くしゃくしゃになった煙草のソフトケースを取り出して1本口に入れた。カチカチとライターで火を着けようとするけど、湿っているのかなかなか火がつかない。オサムちゃん、なんでもない顔をしてるけど、煙草が濡れてしまうくらい一生懸命探してくれたんだろうな。 
「ごめんな、ごめんな、オサムちゃん! 心配かけて、ごめんな! 探しに来てくれておおきに! わーん、大好きや!」
 思わずオサムちゃんに抱きついて、泣き出してしまう。
 周りの皆からも、安堵の笑い声が絶えない。
「帰りは、ぎゅうぎゅう詰めで帰らなアカンで。俺はもう寝とくから、帰りはお前らでこげや」
 ヨッシャー! と皆で船に駆け寄ろうとして、はっと気付く。
 そこには、さっきまであったはずの船が忽然と消えている。
「……なあ、オサムちゃん。もしかして、船、つないどらんかった?」
「ん? そやな、そうかもしれん。ハハッ、そうかもしれんな! 」
「……満ち潮っスわ」
 財前くんがため息とともにつぶやく。
「まじで! ちょっと、オサムちゃん、どないするん! うちらを助けにきて、オサムちゃんも遭難してんで、これ!」
 さっきまで天井知らずだったオサムちゃんの株は大暴落だ。
 船を追いかけようと走り出す謙也を、オサムちゃんは首根っこをつかまえて止めた。
「まあ、待てや。流れてもうたものはしゃーない」
「オサムちゃん、しゃーないじゃすまへんで」
 白石がさすがに困った声で言った。
 オサムちゃんは腕時計を見る。
「まあ聞け。よう考えたらな、今日、俺給料日やねん」
「オサムちゃんのアホー! いくらオサムちゃんが給料日でも、ここにはATMもコンビニもないねんもん!」
 私がポカポカとオサムちゃんの胸をこぶしでたたくのを、軽く片手で防ぐ。
「ええから、ちょとだけ待っとけ」
 そして、シーッと人差し指を顔の前に出してみせ、ニヤリと笑うのだ。
 私たちは、ついつい黙って息を飲む。
 10秒ほどだろうか、上空からモーターの音が響いてくる。はっとして見上げると、ヘリコプター! 音はどんどん近くなり、そして猛烈な風を巻き起こしながら砂浜に下りてきた。
 思わずぎゅっと閉じた目を、風がおさまった頃におそるおそる開いてみると、そのヘリコプターの胴体に書いてある文字が目に入る。
『SAKAKI』
 心の中で声に出してみていると、ヘリコプターの中からはスーツにアスコットタイの男の人が降りてくる。
 なんか見たことあんねんけど……思い出した! 東京の氷帝学園テニス部の監督の榊先生や! 一体なんで榊先生がこんなとこに!
「渡邊先生、今月分を支払い願おうか」
 呆然としている私たちをちらりと見て、優雅なしぐさで榊監督はオサムちゃんに歩み寄る。
「悪い悪い、ちょとコンビニまで乗せてってくれたら、金下ろしますんで」
 オサムちゃんが悪びれた様子もなく帽子を押さえながら言うと、榊監督はびしっと、あの、いってよしのポーズでヘリのほうを指した。
 私たちはわけもわからず、けど、これだけは逃されへん! と慌ててヘリコプターに乗り込んだ。
「……オサムちゃん、どういうことなん、コレ」
 さっぱりわけのわからない私はオサムちゃんを問いつめてみた。オサムちゃんは肩をすくめて、帽子で目元を隠す。
「全国大会の途中でお前ら、焼き肉食いまくったやろ。あの支払いいくらになった思てんねん。榊先生に立て替えてもろててな、ワリカンの分を分割で支払うことになってんねや。このオッサン金持ちのくせに結構シブチンでな。給料日にはきっちり取り立てる言うとってんけど、ほんまにその通りやったわ」
「あん時の焼き肉、ウマかったなー! オサムちゃん、今夜は焼き肉おごってーなー、腹ぺこや!」
 金ちゃんがうれしそうに叫ぶ。
「あほか、流しそうめんにきまってるやろ!」
 流しそうめんでもええよ! もう、オサムちゃん大好きや!

モジモジサバイバルwith四天宝寺中  おわり!!!




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