● ザ・裸ネクタイコンテスト 鳳長太郎編  ●

「こんにちは! 氷帝学園二年の鳳長太郎です! 今回は合同学園祭のこんなイベントにまでお誘いいただいて、どうもありがとうございます。とても光栄 です!」
 スカッドサーブで見事な腹チラを見せていた鳳選手は、きらきらしたさわやかな笑顔で会場に向かって挨拶をして、そして同じくステージに上がっている審査委員長の部長とアシスタントの私に丁寧に会釈をした。
 上半身裸のネクタイ姿で。
「いやー、さすがとても素晴らしい会場ですね。俺、こんな格好で、もしかしてちょっと寒いんじゃないかなーって思ったんですけど、空調もばっちりでぜんぜん寒くないですよ」
 チェックのパンツに革のローファー、きちんと整えられた髪にそして見事な筋肉の裸の上半身、に、ネクタイ。
 そのなんともさわやかな笑顔に、相当にミスマッチないでたちである。
 って、私たちが指定したんだが。
「……部長、この人、なんで裸ネクタイやねんってところは一切すっとばして空調を褒めるとか、なんかもう超ポジティブなんですけど……」
 私は彼のさわやかさに少々引きながら、部長に耳打ちをした。
「うーむ、手強い……。なんていうか、裸ネクタイなんだけど、実は本当はちゃんとシャツを着てて、私たちの心が汚れているから、シャツは見えなくて裸に見えてしまっているのではないか、という思いに駆られてしまうほどだ……」
 さすがの部長も、少々狼狽しながら点数表をつけはじめる。
「そうですよねー。でもどうせなら、見えなくなるのはシャツだけじゃなくて、他の部分もって思いますけどね」
「うむ! それでこそぼんのうクラブ!」
 気を取り直した部長は、点数表を手に、鳳選手を観察しながら彼の周りをうろうろし始めた。
 身長180超という鳳選手は、200キロを超えるサーブを打つというだけあってその筋肉も見事に発達していて、背筋のつき具合もなかなか。
 しかし、きっちりとベルトをしめたパンツ、きっちりとしたネクタイ。
 なんていうか、セクシーというよりか、わんこみたいだなーという感も否めないな、私の好みとしては。
 などと思っていると、部長は順調に点数表をつけているようだった。
「鳳くん、ほんと堂々としてるね、なんか寒いの苦手だとかわいそうだなーって思ったけど、空調ちょうどよくてよかった」
 多分、何をしゃべったらいいかわからんのだろう部長(意外と照れ屋で口べたなのである)が、てきとーな事を言いながら表を埋めていた。
「はい、ぜんぜん大丈夫です。別にネクタイだってなくていいですし、もしもっと脱がないといけないんだったら大変だからって、今日はちゃんと勝負パンツを履いて来たんですよ」
 おお、この鳳選手、果たしてどういう意図なのか、はたまた何にも考えてないのか、なんてことを言うんだ!
 私は会場のメス猫の方々にちらりと目をやると、静かな会場はざわざわとし、メス猫たちの目の色がかわっているではないか! 
 まずい、もしかしたら、黄色い声での『脱げ脱げコール』が始まってしまうのでは!? そして混乱により、コンテスト中止なんてことになったら!
「鳳くん!」
 しかし、部長の厳しい声で、ざわつき始めた会場がいっぺんに静かになった。
「あのね、今回のコンセプトとして、ネクタイは重要なの。暑い寒いの問題じゃないの。そして、鳳くんの勝負パンツは、見たいか見たくないかといったら見たいけど、すごく見たいけど、あのね、鳳くんみたいな子がそんな事言ったら、もう悪いお姉さんに何されるかわからないからね、それとね……」
 そして、部長の説教が約30分くらい続いた。テーマとしては、鳳選手のあるべきセクシーの芸風とは、とか、裸ネクタイのコンセプトとか、あと、一応どんなパンツはいてるのという質問とか。
「わかりました!」
 延々と続いた部長の説教の後、鳳選手は目をきらきらさせて大きく部長にお辞儀をした。
「俺、今日は本当に勉強になりました! どうもありがとうございました!」
 感動に涙ぐんだ目をかがやかせながら、彼はステージ脇へと消えて行った。

 鳳選手のお披露目 以上!


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