● ザ・裸ネクタイコンテスト 向日岳人編  ●

 さて次は、向日選手か。
 飛んでみそ〜。
 私が選手名を呼んで登場を促そうとすると、突然会場にダウン系のリズムの重低音が響いた。
「ちょっと、これは何!?」
 度肝を抜かれた様子の部長が、私の耳元に顔をよせてきて大声を出す。
「えっ、いや、さっぱりわかりません。こんな音楽を流す予定など、まったく……」
 私たちが顔をつきあわせて困惑していると、何かが勢いよくステージに飛び出してきた。
 ぎょっとして振り返ると、そこでは何やらちっこい生き物がくるくるとコマのようにまわっているではないか。まわりすぎてバターになってしまいそうなその生き物を、動態視力を総動員して確認するとそれは案の定というか当然ながらというか、向日選手だった。
 彼はひとしきりくるくるとまわったかと思うと、次はぴょーんと高く飛び上がって着地し、リズミカルでせわしいステップを踏む。
「ちょっと! ストップ、ストップ、ストーップ!」
 部長が険しい表情で叫ぶと、音量が下がりそして向日選手のステップも止まった。足先はリズムを刻んだままだが。
「なんだよ、せーっかくノッてきたとこなのに」
 彼は不服そうに部長をにらみつけた。
「あのね、今回はダンスコンテストじゃないの。そんなにスピーディに動かれたら、裸ネクタイ姿をじっくり堪能できないじゃないの!」
 部長はこれまたぼんのうにストレートな苦情を述べた。
「せっかくステージに上れんだからさ、ちょっとくらいいいじゃん」
 向日選手は部長の説教もどこ吹く風。にかっと笑ってリズムをとりつづける。
 小柄ながらも均整のとれた骨格の彼は、踊った後だからかネクタイの結び目もだいぶゆるくなり、申し訳程度に首からぶらさがっているだけ。これまたゆるめに履いている制服のパンツはなんとか腰骨にひっかかっているが、彼が動き回るたびに揺れるネクタイの向こうから形のいいお臍がちらちらとのぞいて会場全体の視線を集めていた。
「でもね向日くん、勝手な演出というのは度が過ぎると減点対象になるの、減点。笑点では、先週の放映で前半部分に出てきた芸人さんがね……」
 部長はもっともらしく説教を続けようとしているのだが、視線は向日選手の腹の部分をガン見で、おそらく彼女の精緻な脳内ではぼんのうが激しく飛び交っているのか、言っていることがさっぱりトンチンカンになっていた。
 ステージでのダンスに夢中な向日選手はきわめてキュートで健康的なのであるが、動き回って大きく着崩れたネクタイとパンツはそれでもやけに似合っている。
「わけわかんねーこと言ってねーで、アンタも踊ってみそ。せっかくのステージなんだぜ。ほら、これが基本のリズムだ」
 向日選手はアップとダウンと交互で体を揺らして見せた。部長の表情がこわばっていくのがありありと見えた。部長は見目麗しく頭脳明晰な女子ではあるが、きわめて運動センスのない人だ。しかし、向日選手はおかまいなしに、ほらほらと部長にステップを促す。
 しばし固まったままだった部長は、向日選手にせっつかれしぶしぶ体を動かし始めた。
「なんだよ、それじゃおっさんのスクワットだろ。ぜんぜんだめだな! もっと、こうだって!」
 暗澹たる表情の部長には気の毒であるが、おかげで私もメス猫の皆さんも、ほどよいスピードで動き続ける向日選手のキュートなボディを腹一杯堪能できた。

向日選手のお披露目 以上!

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