● ザ・裸ネクタイコンテスト 芥川慈郎編  ●

 次は芥川ジロー選手〜、芥川選手〜。
 コールをしてもなかなか選手が出てくる気配がない。部長に目配せをされ、私が控え室をのぞきに行こうとしたと同時に、盛大なあくびが響いた。ばっちりマイクが拾ったようだ。
「ふわぁ〜〜、なに、俺の番? なんかさぁ、樺地が起こしに来てくんなかったから、今まで寝てたC〜」
 彼が出番までたっぷり寝ていただろうことは予想範囲内であったし、芥川選手のあくびなど珍しくもないのだが、とにかく我々の視線は彼のいで立ちに釘付けになっていた。
 だって!
 芥川選手は裸の上半身にネクタイをひっかけてさえおらず、手に持ってるだけ。制服のパンツを履いてはいるのだが、かろうじて両足をつっこんできたという様相で、チャックもベルトも全開なのである。彼はそれを気にする風もなく、ネクタイをぶらさげていない方の手でぽりぽりとお尻を掻きながらステージ中央に歩んで来た。
 ステージ中央で立ち止まり、ふたたび盛大なあくびをする芥川選手に部長の怒号が飛んだ。

「ちゃんと服を着なさぁ〜〜〜い!」

 このようなイベントの主催者の言葉としては如何なものかとは思うものの、さすがに私も部長の意見に賛同した。
 芥川選手、一体どんな格好で寝てるんだ??
「俺さぁ、あんまり気持ち良く眠っちゃうと寝ながら服脱いでパンツいっちょうになっちゃうんだよね。いつもは樺地が起こしてくれて、服を着んのも手伝ってくれんだけどさー」

「パンツいっちょう!?」

 部長のひっくりかえった声が響いた。ぶ、部長、パンツいっちょうに反応しすぎ!
「あっ、でも大丈夫、俺いざという時のためにトランクス派だC〜。うっかりそのままでうろうろしちゃっても、一見ハーパンみたいにみえるよね?」
 芥川選手は、くるりとまわってその縦縞の下着を見せびらかした。
「大丈夫じゃない! トランクスはトランクス! 大事なところはきっちり保護しなさい!」
 部長の怒号で、芥川選手はちょっとしゅんとして、手に持って振り回していたネクタイを首にひっかける。
「ちぇーっ、結構このトランクスのままで試合に出たこともあるけど、すーすー涼しくて爽快なのにー」
 しょぼんとする芥川選手を、部長がぎょっとした顔で見つめる。
「えっ、試合の時のあのシマシマのハーパンってトランクスだったの!?」
「ハーパンの時もあるけど、寝ぼけて履き忘れた時はトランクスだC」
 彼はにかっと笑って答えた。
 マジマジ〜? と私は心の中で芥川選手のモノマネをしつつ動揺した。
「……ちなみに、関東大会の時の不二くんとの試合の時のアレはハーパンかトランクスか、どちらだったのでしょうか」
 やけにかしこまった部長に、芥川選手はひまわりのような笑顔を向けた。
「あー、あん時はトランクス」
 私と部長は瞬時に顔を見合わせた。
 だって、我々の力作『腹チラ写真集』のあの芥川選手の写真、場合によっては腹じゃないものもチラってる可能性があるわけだから。
「……了解。えーと、だけどとにかく今はちゃんと、チャックも上げてベルトとかしとこうね」
 部長はなんとも大きなため息をついてから、改めて芥川選手に告げた。
「ふぁ〜い」
 芥川選手は寝ぼけた小さな子供みたいに、ゆっくりとチャックを上げてベルトを締め、そして面倒臭そうにネクタイを結びはじめた。
 ちょっと口をとんがらせて、まだちょっとねぼけてるのか手の動きがおぼつかない。
 おお〜、か、かわい〜い!
 会場のメス猫の方々の声にならない声が充満した。
 規定以上の露出は減点対象になるのだが、部長の手ににぎりしめられている採点表にマイナスポイントはなく、注意書きで『やむなき事情により露出過多』と書かれているだけだった。

 芥川選手の披露 以上!


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