ザ・裸ネクタイコンテスト 野村拓也&金田一郎編



 ルドルフ会場のステージで私が選手のコールをするより先に、どたばたという足音が舞台袖から聞こえて来た。おや、と覗き込むと舞台に走り込んで来る二人。

「どうも〜! 聖ルドルフ学院二年、金田一郎です!」
「聖ルドルフ学院三年、野村拓也、通称ノムタクです!」
 
 あれ、トップバッターの選手は二年の金田選手からだったはずなのに、野村選手まで一緒に来ちゃった。
 二人してスタンドマイクの前に立って、若手芸人ばりに会場に向かってお辞儀をした。

「いやー、金田はさ、なんだかんだ言って試合したもんね。バカ澤ー! なんて言って、見せ場あったもんね」
「何をおっしゃいます、ノムタク先輩は温存されて最終試合のシングルスだったわけじゃないですかー」
「いや観月が、俺のことは捨て試合って言ってたの知ってるから……」
「……あ、でもほら、ノムタク先輩には名台詞『弟くん』があるじゃないですか!」
「でも、それで裕太にどつかれるだけだろ……。お寒いキャラだよね、俺って」
「確かに何か寒いですよね。って、あれっ、俺たち今日、ワイシャツ着て来るの忘れてるじゃないですかー! ネクタイしてるのにー!」
「ハイ、ありがとうございましたー!」

 若干引き気味の会場を前に、ビミョウな感じの漫談にもならぬ漫談をしていた二人に怒号が飛んだ。

「まったまったまったー!」

 眉間にしわをよせた部長が割って入った。
「きみたち、これは演芸大会じゃなくて裸ネクタイコンテストなんだけど! それに、ちゃんと一人ずつ出て来るように出場順のプログラムを渡してあるはずでしょう!」
 ボールペンを振り回しながら部長は二人に警告を続ける。
 おお、これはイエローカードが出てしまうのだろうか?
 気弱そうな二人を、私はハラハラしながら見つめる。
「……ですけど、ぼんクラ部長さん!」
 野村選手がずいと前に出て声を絞り出した。
「ぼんクラと略すな!」
 そして、案の定部長の怒り。野村選手はとことん禁句の人だな。
「あ、すいません、ぼんのうクラブ部長さん。僕らは、どうにもキャラが弱いです! 裸でネクタイでいても、一人ではどうにもパンチがきかないように思うんです。そこで、共通点を持つ二人で一緒に出ることにしました!」
「共通点? キャラが弱いという以外にどういった共通点が?」
 部長の質問に、野村選手が胸を押さえる。
「ぐう、キツイことを言いますね……」
「あの……」
 野村選手の後ろにいた金田選手も一歩前に出た。
「実は俺の好みのタイプって、『ひっぱっていってくれる子』なんです。そしてノムタク先輩の好みのタイプは『英語教師のキャサリン(27歳)』。つまり、俺たち二人とも、年上が好みなんです!」
 金田選手は拳を握りしめて大声で言い放った。
「はあ……」
 さすがの部長もそれ以上言葉が続かない。
 絶句している部長に向かって、今度は二人揃って言った。

「だからですね! 今回の俺たちのこの裸ネクタイ! 『年上の経験豊富な彼女に、無理矢理裸ネクタイにされて恥じらってるチェリー』という設定で審査してください! よろしくお願いします!」

 若干頬をあからめながら絶叫して頭を下げる二人。
 設定指定か!

 まあ、この企画にて裸ネクタイを指定しているわけなので当たらずとも遠からずではあるが……。
 ふと部長を見ると、点数表の備考欄に丁寧に書き込んでいるではないか。
「よし、わかった! その設定しかと書き留めた! うん、アリだな」
 部長的にはアリなのか!
 二人は口元をほころばせてガッツポーズを取っている。
「それでですね、俺たちの設定としては年上の彼女に無理矢理こんな格好をさせられて、そして次に彼女はまずネクタイを……」
 調子に乗って語り出そうとする野村選手を、部長はボールペンで制止した。
「野村選手! ここは聖なる女子のぼんのう会場だ。きみたちのそれ以上のぼんのうは、ルドルフ寮で己がぼんのうクラブでも結成して展開されたし!」
 聖ルドルフ学院でぼんのうクラブが結成されるかどうかは、神のみぞ知る。

以上!




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