モクジ

● ザ・裸ネクタイコンテスト 忍足侑士編  ●

 うむ、次は忍足選手か。こういうのは得意そうだな。会場のメス猫さんたちが興奮しすぎないか少々心配だが、ここの警備は氷帝テニス部顧問の榊先生が手配してくれた精鋭なので大丈夫だろう。私は舞台袖にキューを出した。
 そして、登場する忍足選手。
「はぁ〜、もうやってられへんわ〜」
 おや、こういう事にはノリノリで参加しそうな忍足選手が大きなため息をつきながら、やけに不機嫌そうだ。
 私と部長は、意外な思いで彼を観察した。
 その姿は、程よく緩めのネクタイにベルト、案の定なかなかに似合ってはいるが、そのオプションである丸眼鏡はこういった場合の小物としてはビミョウだなと個人的には感じた。
「俺、もうおわってるちゅうねん〜」
 しかも、不機嫌そうでいながら日吉選手と違うのは、明らかに構って欲しげなのである。こういう時に部長は気の利いたツッコミができないので、かわって私が尋ねた。
「あのー、忍足選手、どうかなさったんでしょうか」
 すると、彼は待ってましたとばかりに髪をかきあげて言うのだ。
「聞いてくれや。あんな、『なあ、なんやったらもう一枚脱いだろか? 今日は勝負パンツやねん』ってネタ、長太郎ごときに先に使われてしもたんやで!? まるで、ネタを仕込みまくった持ち歌を、カラオケで先に唄われてしもたみたいなもんやん? 俺もう終ったわ! しかも長太郎、俺のネタを先につこたくせに、いっこもおもんかったやろ!」
「いや、でもこれはM1とかじゃないから、笑いを取ったかどうかが勝負じゃないし。鳳くんのあれはあれである意味なかなかの高評価だから」
 部長が言うと、忍足選手はまたはーっとため息をついた。
「自分、わかってへんな〜。俺がこの完璧な姿を会場の皆さんに披露するやろ、そんで最後に一言その台詞を言うねん。もう、どんだけ沸くと思う?」
「規定以上の意識的な露出は、減点対象になるんで」
「あほやな〜。この場で脱ぐんとちゃうねんて。後で二人きりになった時にきまってるやんなあ」
 そう言って会場に目配せする彼に、あっさり会場のメス猫の方々は目をハート型にする。
「しかも、俺の勝負パンツ、ハートをわし掴みにするセクシーなやつか、思い切りウケるネタを仕込んだやつか、どっちやと思う? 自分ら、知りたない?」
 そして、私たちを見ると上品に唇のはしを持ち上げた笑みを浮かべ、軽くベルトに手をかけた。
「……部長、私はやはりここはストレートにセクシー勝負パンツなのではないかと思いますが」
「いや、もしかすると減点覚悟で会場で脱ぐ気だったかもしれない。だとすると、関西人気質からしてネタパンツ……」
「ちょ、ちょい自分たち、待ちぃな……」
 私たちが熱く討議していると、忍足選手が戸惑った表情で割って入った。
「あんな、そこは討議するとこちゃうやろ。やだ〜、どっちやろ〜って頬染めるとこやろ。自分ら、口説かれ下手やな〜」
「ぼんのうクラブ活動規約第72条『ぼんのうと恋愛は別物』なんで」
 私と部長は声をそろえて言った。
 忍足選手はためいきをつくが、その姿勢、背中の角度なんかもなかなかに計算されつくしたもののようで、会場のメス猫の方々からは甘いため息がもれ、そしてその目はやはりハート型であった。
 しかし、このようなセクシーなお姿でいながらもナチュラルにボケたりツッコんだり、ぼんのうまみれではいるものの硬派な私たちをまったく照れさせることのない忍足選手。口説かれ下手な私たち以上に、結構損をしてるタイプかもね、なんて私は思ってみたり。

忍足選手のお披露目 以上!

モクジ

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