● ザ・裸ネクタイコンテスト 宍戸亮編  ●

 えーと、鳳選手、日吉選手と続いて次も二年生の樺地選手……と思いきや、登場したのは宍戸選手だった。

「樺地は跡部が用事あるみてーで、ちょっと後にしてくれってよ」

 ちょっとかったるそうに、でもさして不機嫌そうでもなく登場してきた宍戸選手は気さくな口調で部長と私に向かって言った。
 鎖骨の少し下あたりで結ばれたネクタイは緩すぎずきつすぎず程よい位置で、片手の親指をベルトにひっかけながら宍戸選手はゆっくりと歩いて来た。
 テニスの試合の時にいつもかぶっているキャップは今日はナシで、短いけれどセンスよくセットされた髪がよく見えた。彼は確か以前はきれいな長髪だったけれど、短くしても丁寧に手入れをしてるんだろうなあ。
 うーん、かっこいいじゃないか……!
「……」
 私と同じくじっと宍戸選手を見つめていた部長は、いきなり自分の制服のジャケットを脱いで走り出した。
「ぶ、部長!」
 私が叫ぶと同時に、部長はジャケットを宍戸選手の上半身にかぶせると、ぎゅうと前を合わせた。
「早く! 早く逃げて、宍戸くん!」
 部長は血相を変えて彼をぎゅうぎゅうと舞台袖に押し返そうとするのだ。

「喝ッ!」

 私は部長のもとへ走りよると、間髪入れずに真田副部長ばりの裏拳を飛ばした。
 ぼんのうクラブ活動規約第97条『ぼんのうのあまり突っ走りそうになったら、上下関係にかかわらずメンバーは互いに正気に戻すよう勤めよ』である。
 頬をおさえてうつむく部長と鼻息の荒い私を、宍戸選手は呆然と眺めていた。
「ど……どうしたんだよ、お前ら、なんなんだよ……」
 さすがに少々引き気味の様子。
「……私としたことが、とりみだしてしまって。なんというか、宍戸くんのこのようなお姿は、極めて個人鑑賞用というか、私は堪能したいけど、メス猫どもにはお見せしたくないというか……」
 うつむいたままの部長は、なんと、照れていた!
「いや、ぼんのうクラブ部長ともあろうものが、申し訳ない。宍戸くん、お詫びに、これをあげるから。ハイ、模擬店のイカ焼きの割引券」
 部長は上着のポケットから取り出した割引券を宍戸選手に押し付けた。引換券ではなく割引券というところが、ビミョウにせこい。
「え? くれんの? わりーな、サンキュ」
 でも、素直に喜ぶ宍戸選手、庶民的なところがこれまた好感度高い。
「じゃ、俺、もう行っていいか? 服、着ていいよな?」
「はい、早く鳳くんとイカ焼きでも食べてきて。ちゃんとシャツを着て、ボタンをしっかりとめてね!」
 小走りでステージを去って行く宍戸選手に、部長は満足そうに手を振った。
 おそらく、まだまだ彼の裸ネクタイ姿を堪能したかったであろうメス猫の皆さんからは、ブーイングの嵐だった。


宍戸選手のお披露目 以上!

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