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恋のロマンティックブギ



 同じクラスの柳生比呂士は、お母さんみたいだ。
 あ、悪い意味でね。つまり、口うるさいの。
「ほら、今日は委員会の集まりがありますよ」
 運の悪いことに、私は彼と同じ風紀委員。風紀委員なんて、つまらないことこの上ないし会議はお固いし、柳生くんに任せてさらりとパスしちゃいたいのに、クソ真面目な彼に連行されるおかげで、不本意ながら私は委員会に皆勤だ。
 この日も風紀委員の会議で、議題は『2月14日のチョコレート持込禁止について』なんて討議させられる始末。真田が生き生きと会議を仕切ってた。
 もう好きにして。
 会議を終えると、柳生くんは議事録をまとめた手帳をぱらぱらと繰る。
 私は、ひとつだけ彼の秘密を知っている。
 彼の手帳の一番後ろに、一枚の写真が挟まっているのだ。
 それはなんてことのない、仁王くんと二人で写っている去年の学園祭の時のもの。
「あ、その写真、まだ持ってるの」
 彼の手帳をちらりと見て私が言うと、柳生くんはふふっと笑う。
「こういう思い出も、悪くないでしょう」
 最初に見た時は、写真まで持ち歩くなんて、気持ち悪いくらい仁王くんと仲いいんだなとちょっと引いたけど、その後、何かの折に仁王くんが写真の意味を暴露した。
 写真で笑う二人後ろに、小さく写っている通りすがりの白いワンピース。
 花をあしらった麦藁帽子で、その顔は見えない。
 柳生くんは、その女の子が気に入ってるらしい。
 なにそれ乙女ちっくー、と私は思わず笑ったけど、彼はまったく動じなかった。『清楚で柔らかな雰囲気が伝わってきて、幸せな気分になります』と言って、その写真を優しい目で見て微笑むのだ。
 で、私が知ってる彼の秘密っていうのは、これから先が重要。
 本当に私だけが知ってる秘密。
 その写真の白いワンピースは、実は、私。
 去年、私のクラスでカフェをやった時の衣装なの。
 委員会をさぼろうとしては小うるさく説教されるたび、私は写真の君の秘密を思い出しては、『清楚な白いワンピースの女の子なんて実在しないんだから』と、心で舌を出す。
 それでも、思い出したように手帳に落と柳生くんの目はいつも優しい。

「あーあ、バレンタインはチョコ禁止か。別にあげる相手もいないけど、盛り上がらないなー、つまんない」

 今日のくだらない会議を思い出して私は思わずつぶやいた。
 柳生くんはパタンと手帳を閉じる。
「校則ですからね、仕方がありませんよ」
 案の定、つまらないリアクション。
「でも、あんな真田の取り締まり強化がなかったらさ、テニス部って結構モテるから、たーくさんチョコもらえるんじゃない? もったいないよねー、柳生くん。写真の君から、もらえたかもしれないのにねー」
 私はいたずらっぽく言ってみた。
「いえ、彼女からはきっともらえないと思います」
「なに、柳生くんらしからぬネガティブさじゃん」
 柳生くんは優しげに笑う。
「だって、彼女は風紀委員ですからね。校則をやぶることはしませんよ」
 そう言って笑顔のままもう一度手帳を開いてから、私を見る。
 私はカーッと顔が熱くなるのを感じた。
 柳生くんは、私が天邪鬼なのを知ってる。
 バレンタインデーに私は、鬼の風紀委員長と真っ向勝負をしなければならなくなりそうだ。

 Happy Valentine!





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