Happy Birthday


切原赤也


 朝、あれだけお菓子を食べたのに、昼になったら昼になったでお腹は減るもので、私は購買にパンを買いに行く。
 自分の机に戻ってみると……。
 木彫りの熊が、巨大なリラックマに変身していた。
 いや、違う。確か木彫りの熊はロッカーにしまっておいたはず。
 これは新顔だ!
 そのリラックマをつかむと、私は二年生の教室に走った。
 2年D組の教室に向かうと、廊下ではソワソワした赤也が立っている。私の姿を見つけると、一瞬顔をそらしてからなんでもなさそうに壁にもたれたりなんかする。
「あっ、センパイ、どうしたんスか?」
「うん、このリラックマ、赤也でしょ? どうもありがと」
「えっ? ああ、まーね。よく俺ってわかりましたね? やっぱ、愛?」
「愛っていうか、だって赤也、前にこれゲーセンのクレーンゲームで取ったけどじゃまくさいって、部室のロッカーに押し込んでたじゃん」
 私が言うと、赤也はヤベッという顔をする。
「いや、でもね! それ、他の女子たちに欲しい欲しいって言われたんスけどね! 絶対センパイの誕生日にプレゼントしようと思ってとっといたんスよー!」
 ほんまかいな。
「あ、そうなの?」
「マジすよ! 信じてくださいよ〜!」
 意外に必死な赤也に、つい吹き出してしまう。
「うん、信じる信じる。どうもありがとね」
 そう言うと、赤也はぱあっと嬉しそうに笑うのだ。
「じゃ、それ、俺だと思って大事にしてくださいよ。ぎゅっと抱きしめたりしてさ」
「うん、わかったわかった」
 私は小脇に抱えたリラックマをぎゅっと抱きしめる。
「……いや、そんなチョークスリーパーするみたいなんじゃなくて、こう、もっと正面から抱擁って感じにギュウッと抱きしめてもらえませんか?」
 注文の多い奴だな。
 リラックマを抱えなおして正面からぎゅうとだっこすると、赤也はニヤニヤ顔。
「センパイのオッパイ、や〜らかいスね〜」
 そして、そんなコトを言うのだ。
「ちょっ……、いやらしいリラックマだな!」
 私がリラックマの頭をペシンとたたくと、きゅーんという赤也の悲鳴。
 やっぱりおかしくなって笑ってしまう。

Next




-Powered by HTML DWARF-