Happy Birthday


柳蓮二


 午後イチの授業の後、お手洗いに行っていたら、いつのまにか私の机の上に風呂敷包みが置いてある。
 何だろ、と思いながら中を見ると、ああこれは誰が置いていったのか一目瞭然。
 以前に私が柳に貸した、保健資料だった。
 風呂敷をたたむと、私はバッグを手にして教室を出る。
 次の授業は体育だから、更衣室に行くついでに柳のクラスに寄ろう。

「柳ー、資料受け取ったよ! これ、返すね」

 廊下から風呂敷を掲げて柳に声をかけた。
 私に気づいた柳はゆっくりと廊下に出てくる。へえ、やっぱりしぐさが優雅だ。

「ああ、その風呂敷は返す必要はない。お前への誕生日プレゼントがわりだ」
「え、これ、もらっちゃっていいの?」
 風呂敷はえび茶色に、四隅に桜の柄がついた品のいい可愛らしい柄で、確かに私これ見た時から『なんか、いいなあ』って思ってたから、ちょっと嬉しい!
「いい柄だろう。ちりめん友禅だ」
 私の気持ちを見透かしたように、柳はふふっと笑う。
「うん、きれいだなーって思った。女の子が持つみたいな柄だけど、柳にも似合うなって思ったよ」
「俺はまた別の柄のを持っているからいいんだ。それはお前に、と用意した」
「へえ、ありがと!」
 さすが柳、スマートで品がいいなあ。
「風呂敷はなかなかな便利でいいぞ。エコバッグのように、いろいろな使い方ができる」
「そういえばそうだよね。あんまり使ったことなかったけど、結構いいかも。さっそく使わせてもらうね。なんかコレ見てたら、いろんな柄を見てみたくなっちゃった。いろいろ買い揃えて、贈り物をするときに包むのもいいかもね」
 急に風呂敷気分が盛り上がった私。
 柳はふっと笑って、私の手から風呂敷を取るとそれを広げ、ふわりと私の肩にかけた。
「そうだな例えば、こうして『私がプレゼント』とやってみたりだな」
 想像だにしない柳の言葉に、私は一瞬リアクションにつまってしまう。
「えっ……私はそういう芸風じゃないんだけど……」
 柳は少々眉をひそめる。
「……俺とて、時には冗談を言う」
「え、ああ、今の冗談だったんだ! いや、柳が冗談言うってイメージないから、ちょっとリアクションに困っちゃって……」
「お前のことが欲しいと、俺が催促をしたと思ったか?」
 えっ……!
 私が口ごもると、今度は柳は我慢できないというようにくっくっと声を出して笑うのだ。
「今のも、冗談だ」
 ちょっと、もー、柳の冗談って、なんか心臓に悪い……。
 レアで、嬉しいけどね!

Next




-Powered by HTML DWARF-