体育の授業の後の私の机には1枚のカード。
『黒い白馬にまたがって前へ前へとバックしろ』
今度は何なんだ!
これから掃除なんだけど!
図書番号の次はどんな暗号なの!
軽くため息をついて、外掃除の持ち場に出ようとした。
そして、はっと思い浮かんだことがあった。
持ち場の場所に行く前に、美術室に飛び込んだ。
この日は美術室の掃除の担当者はいないようで、そこに人影はない。
美術室の後ろの棚には、いろいろな彫刻やブロンズ像やなんかが並んでいる。
そのひとつに、多分デッサン用か何かだと思うんだけど、石膏の馬がある。
石膏だから当然白い馬なんだけど、薄汚れて黒くなってるの。
私はその馬の正面に立って、教室の前方に背を向ける。
用心深くゆっくりと、そのまま後ろ向けに歩いて行った。
あーあ、何バカなことやってんだろ、私……なんて思ってると。
何かにけつまずいてしまう。あー、私、こんなバカみたいなことやって頭打つハメになるなんて、バカバカ!
後頭部への強い衝撃を覚悟していると、私を迎えたのはなにやら力強い腕。
ぎょっとして振り返ると、明るい色の髪に、ニヤニヤした色男。
「仁王!」
「よぉわかったのぉ」
「何やってんの?」
「お前さんがメッセージどおりにやれば、お宝にたどり着くよう控えちょった。ごくろーさん、ホレ、誕生日プレゼント」
仁王はそのきれいな指にひっかけた、シルバーのストラップを差し出す。
シルバーで、ネジとドライバーをかたどったものだ。意外にキレイ。
そういえば、仁王が学校新聞の取材で『座右の銘は、黒い白馬にまたがって前へ前へとバックした』だとか『今欲しいものは、ネジとドライバー』なんて答えてたことを思い出した。
「……それにしても、なんでネジとドライバーなのよ……」
そのストラップを受け取りながら、仁王に尋ねてみる。
「なんでって? さあのぉ。なんかこう、凹凸にきっちりハメこんでちゅうトコがエエと思わんか?」
ニヤニヤ笑いながら言うのだ。
「……なんか、仁王が言うとヤラしいな〜」
「なんでじゃ? なんでヤラしいんじゃ? 言うてみんしゃい、ホレ」
なんてね、ニヤニヤしながらしつこいんだけどね、言うほど、仁王は何してもヤラしくないんだよね。
何してもついスルスルと許せてしまうの。イケメンに限るって奴?
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