Happy Birthday


幸村精市


朝っぱらから血糖値を上げすぎたのか、若干胸焼けがして頭がくらくらする私は、外の空気でも吸おうと窓を開けた。
 すると、何かものすごい勢いで窓から侵入する影……。

「くるっぽー! くるっぽー!」

 バサバサと私の机の上に止まったのは、なんと鳩だった。
 ちょ、ちょっと困るんだけど……。
 どうにか追い出そうとしてると、その足元にリボンで何かが結わえ付けられていることに気づいた。
 つつかれやしないかと思いつつも、恐る恐るそれをほどいてみると、そこには小さな瓶とオリーブの小枝。
 
「くるっぽー! くるっぽー!」

 鳩はまだ騒がしくて、そしてリボンをほどいたと思ったら今度は私の頭の上に飛び乗るのだ。
「ぎゃー! ちょっとやめてよー!」
 さすがにクラスメイトもざわついてくる。
 頭を振っても鳩はびくともしないし、私はいたたまれなくて廊下に飛び出した。
 オリーブに鳩、自然主義・平和主義のようでいながら、なに、この強引な鳩は!
 私は心当たる方向へ足を向けた。そう、C組の方へ。
 そっちへ足を向けると、うるさい鳩の『くるっぽー!』も静かになるのだった。

「ちょっと、幸村!」

 鳩を頭に乗せたまま、C組の幸村の机の前に駆け込む。

「うん? なんだい?」

 幸村は表情ひとつ変えずに私とくるっぽーを見上げる。
「この鳩、なんとかしてくれない?」
「ああ、アレキサンダーか」
 彼はにこっと笑った。
「アレキサンダーは首尾よく仕事を終えたかい?」
 私は手元の小瓶とオリーブを掲げてみせる。
「そうか、アレキサンダー、ご苦労だったね」
 幸村が言うと、鳩は私の頭からようやく離れて窓から外に飛び立った。
「あれ、幸村が飼ってる鳩?」
「いや、時々こうして仕事を依頼する依頼相手だよ」
「依頼相手……」
 これまた、回りくどい上にビミョウに迷惑な依頼を……。
「これはね」
 そんな私の思いには構うことなく、幸村は私の手元から小瓶を摘み上げる。
「ピュアオリーブオイルだよ。俺が厳選した貴重なオーガニックだ。肌の手入れなんかに使うといい」
「へえ」
 オーガニックだとかそういった言葉に弱い私は、感心してその小瓶を見つめた。
「でも……よく、アレキサンダーに依頼したのが俺だってわかったね?」
 カワイイふりして強引な鳩だったもんって言おうとして口をつぐむ。
「鳩とオリーブは平和の象徴だからね、すぐに俺とつながった?」
 ニコニコ顔が3割増しの幸村は、確かにきれいで可愛らしい。
「……うーん、まあね」
 そう言うとさらにキラキラ度が増して、うん、やっぱり幸村は男らしいけど可愛らしかった。

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