モジモジサバイバル with 四天宝寺中


石田銀


 砂浜の方が賑やかになった。島の探索から、みんなが戻ってきたみたい。
「行ってみましょか」
 財前くんが立ち上がって私の方を見た。
 くぅ、どうあっても私一人で茂みにダッシュすることはかなわないようだ。少々モジモジしたまま、私は立ち上がって砂浜にいる皆の方に、財前くんと歩いていく。
 探索から戻った皆はやけにテンションが上がっていて、よくみると何かを運び込んでいた。なんとそれはスイカ。なんでも、以前に人が住んでいたらしき廃屋があって、そこの畑の跡地に生き残りのスイカが茂っていたらしい。『肥料やってへんから、やせとるけどな』と白石が笑った。魚をつかまえて焼いて飯にしようや、と盛り上がる皆を後目に、私はとぼとぼと海辺に歩いた。岩場の方に立ってみる。
 森の方に入るには、皆の目が厳しい。かといって、海岸ではあまりにあけっぴろげすぎる。
 ああ、私が男の子だったら、ここで思い切り放尿できるのになあ、なんて海岸線を見ながら考えていた。
「はやまってはいかんぞ!」
 その時、低くて野太い声とともに背後から丸太のような腕。
「ぎゃーっ!」
 驚いて振り返ると、石田銀師範だった。
「うわ、銀さん、びっくりしたやん!」
 ジェットコースターの安全バーのようながっしりした腕で羽交い締めにされ、それしか言いようがない。
「金太郎が、お前のために般若心経をよんでくれ言うたからな。ヤケを起こして妙なことをせんか、気になったんや。こんなところで、海を見つめているとは……」
「いやいやいや、別に思いあまって飛び込んだりせぇへんよ」
 そうか、海に飛び込んで、いうのも手やったな……今はもうかなわぬ手段やけど……。なんて思いつつ、ふと銀さんの腕をじっと見つめた。いや、ほんとぶっとくて筋肉もりもりの腕やなあ。
「ああ、すまんな」
 銀さんはあわてて、安全バーさながらの腕をほどいた。
「さ、戻るぞ。一人でおってはイカン」
「皆、心配性やなあ、普段はちっとも女の子扱いせんくせに」
 私は苦笑い。だって、普段みんな、私がおっても平気ですっぽんぽんになって着替えたりするのに。
 銀さんはフと笑う。いかついけど、精悍な顔なんだよな、銀さん。
「女子はか弱きもの。皆で守らねばならん」
 太陽を背に、静かに言う銀さんは、ちょっとびっくりするくらい頼もしかった。
「……銀さんがおったら、怖いもんナシやんな」
 そう言うと、銀さんは一瞬だけ照れたような顔をする。
「とにかく、一人になってはならん。……お前が一人になると、誰かが探しに来なければならんやろ。……そうすれば、お前が誰かと二人きりになる。それ即ち、危険につながることもありうる」
「えっ」
 ひどく真剣な銀さんの言葉に、私はびっくりして声を上げてしまう。財前くんといい、銀さんといい、どうしちゃったの!
「いいか、人には百八の煩悩がある。それを、心得とかなければならんのや」
「……銀さんも?」
 彼は静かにうなずいた。
「うむ。だから、早く皆のところに戻らねばならん」
 そう言って、大きな手のひらで私の背中をそっと押した。背中に感じる銀さんの手は、とにかく大きくて、そして熱かった。

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