皆のいる砂浜に戻ると、相変わらず大騒ぎ。
石を積んでかまどまで作っている。『師範〜、ちょっと波動球で魚を気絶させてやってくれへ〜ん』と小春に呼ばれて、銀さんは大きな石を勢いよく海に放り込む。海に飛び込んだ金ちゃんは、次々と生きのいい魚を捕まえてきて、白石が丁寧にそれを枝に刺し、焼き魚の準備を整える。なんて、段取りがエエの、うちのテニス部は!
私がびっくりして眺めていると、隣に大きな人影。
「さすがのマネージャーも、出る幕なかとね」
飄々とした九州男児、千歳千里だった。
「うん? ほんまやわ、私、生きた魚とかよう触らへんちゅうの」
そう言うと、彼はおかしそうに笑った。
うちのテニス部はとにかくみんなマイペースだけど、千歳はその最たるものだ。
「ちょうどよかばい。さっき、スイカと一緒にみつけたとよ」
千歳は、ひょいと手のひらを私に見せる。
「ん、何なん?」
「白石が、お前に一番最初に食べさせてやらんね言いよったったい」
千歳の手のひらの上には、なにやら茶色と金色。みつばちの巣と蜂蜜の固まりだった。
「へえ、これ、食べれるん?」
千歳は笑ってうなずいた。
「甘くて、元気の出るちゃ」
そう言うと、その長い指で蜂蜜の固まりをぽろりと割った。
「ほら、食べれちゃ」
指先で私の口元に差し出す。
私がちょっとどぎまぎして、背の高い彼を見上げても、早く食べろと言わんばかりに口元に押しつけてくる。彼の指から、そのまま口の中にくわえた。一瞬、舌に千歳の指の感触。
うわ、甘い!
口の中に広がる、甘い蜂蜜の味に私は体中がほわんとなる。やっぱりお腹へってたんだ。
「うまかーやろ」
千歳の指には、蜂の巣から垂れた蜂蜜が残っていて、そして千歳は私の唇をぬぐうようにその蜂蜜を塗り付けた。
「もったいないから、舐めんね」
私はびっくりして飛び上がらんばかりなのに、千歳は笑ってさらりと言うだけ。
とろりと甘いそれをぺろりと舐めてると、ちとせはにこにこ嬉しそうに見てる。千歳は天然だからなあ!
まあ、蜂蜜は確かに美味しい。口の中の余韻を味わっていると、今度は思い切り千歳がかがんで私の耳元に顔を寄せた。
「……雲隠に行きよったいんやろ」
これまた突然の千歳の行動と言葉にぎょっとしていると、千歳がクスと笑う。
「雲隠、トイレや」
私は顔がカーッと熱くなる。
「……こんなとこで才気カンバツせんといて」
千歳は天をあおいで笑った。
「はよしんね。俺が見張っといてやるばい」
千歳のバカ! と思うけど、感謝をせざるをえない。
私は森の方へ走った。
それにしても、千歳は天然なのか、わかってやってるのか、ほんとにわかんない!!
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