モジモジサバイバル with 四天宝寺中


忍足謙也


「おう、どこへ行くねん」
 心の中でカウントダウンをしていた私の目の前に立ちはだかるのは謙也。
 非常ベルが鳴り響く。主に私の膀胱のあたりで。
「あ、ううん、別に……」
 私は気もそぞろ。謙也の向こうでは、千歳が「ご愁傷さま」みたいな顔をしてる。
「千歳と何しとってん」
「蜂蜜もろてん」
「なんや、そんなんやったらこっち来いや。これから皆でスイカ割りすんねやで!」
 謙也は私の腕をつかんでぐいぐいと引っ張っていった。
 砂浜には、見事なスイカ割り会場が設置されていた。
「ほら、こいつで思い切りいったれ」
 そして、手渡されるのは棒きれ。ユウジのバンダナで目隠しをしようとする。
「あ、私、ええわええわ、謙也割ってや」
 もう、とてもそんな、テンションあげられない!
「なんや、ノリ悪いな。ま、ええわ、俺がガツーンいったるからな!」
 皆にはやしたてられて、目隠しした謙也がぐるぐるまわされる。ああ、せめて尿意がなければ、私ももっとこの場を楽しめるんだけど。まったくもって、私はスイカ割りの状況が目に入らなかった。
「おい!」
 そして、気づくと謙也の声。一瞬、幽体離脱してた!
「ほら、めっさど真ん中いったで! 食えや」
 目の前には思い切りドヤ顔の謙也。割れたスイカの一切れを、自慢げに私に差し出した。
「川で冷やしてきたから、美味いで。陽にあたりっぱなしやからな、水分取らなあかん」
 水分……。水分は、すでにオーバーフローなんだよ、謙也!
 私はふるふると震えるばかり。
「……どないしてん、お前、さっきから様子ヘンやな。やっぱり具合悪いんか」
 もうだめだ。
「謙也!」
 私はスイカを持つ謙也の腕をつかんだ。
 謙也は驚いた顔。
「……お願い、ちょっと来て……」
 私はもう泣きそうだ。
 神妙な顔の謙也を引っ張って、砂浜を離れた。
 もう、謙也にカムアウトするしか私に生き残る道はない。さっき、千歳の采配で天国に行きかけたから、余計にピンチなのだ。
「あのな、謙也……」
 私が謙也を見上げて口を開くと、謙也は私をじっと見つめながら私の手をぎゅっとつかんだ。
「待てや! こんな時に言うのも何やけど、実は……俺もやねん!」
 私はちょっとキレかける。
「そんなん言うたかて、謙也は男の子やから、その辺でなんぼでもできるやん! 私、ずっとオシッコ行きたかってんけど、皆、妙に心配して一人にさしてくれへんし、もう我慢できへんねん! 謙也、お願い、そこで誰か来んように見張っとって!」
 私はそれだけを言うと、謙也の返事も待たずに森の中へとダッシュした。
 そして……サティスファクション!
 安堵のため息とともに、ようやく穏やかな気持ちで森を出ていくと、眉間にしわをよせた謙也。
「お待たせ。ごめんな、謙也。あ、謙也もオシッコしたかってんな。行ってきてええよ」
「……アホ、俺はええわ」
「そうなん?」
 私たちは砂浜の方へ戻る。
「……なあ、でもな、今のこと、皆に言わんといてや」
 私が言うと、謙也は軽いため息とともにちらりと隣の私を見た。
「わかっとるわ。だったら、お前も……したなったら、俺だけに言えや」
「……なんかヤラしい言い方やな!」
「なんでそんなんばっか気ぃつくねん!」
 言い合いながら、謙也の手のスイカを奪い取った。
「……これ、結構甘いな! おいし!」
「せやろ」
 謙也は嬉しそうに笑う。
 太陽はピカピカ、空は真っ青、スイカは甘い。
 そして、隣に笑う謙也。
 これ、結構悪くない夏やな。

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