モジモジサバイバル with 四天宝寺中


財前光


 少女隊のメンバーならば、言えるかも……! 
 実は、私、オシッコしたいねん……って!
 そう考えた瞬間だった。
「先輩ら、キモいんスけど」
 まぶしい砂浜をバックにやってきたのは、天才・財前くんだった。
 彼は、ぎゅっと固く抱きしめ合った私たち三人に冷ややかな視線を落とす。
「島の、さっき調べた方と反対側を調べよかって、部長が言うてますんで」
「ヨッシャ、小春、行っくでー!」
「まっかしといてー、ユウくぅーん!」
 二人は手をつないで飛び出していった。
 後に残るのは、財前くん。
「あ、ほんなら、行こか」
 私が立ち上がろうとすると、財前くんは片手で私の肩を押し、ストンと座らせる。
「先輩は具合悪そうやから、ちゃんと休んどけって、部長が」
 財前くんは、そう言って私の隣に腰を下ろす。隙間からスポットライトのように落ちてくる日差しを受けて、ピアスが光った。
「別に、大丈夫やで。具合悪いことないって」
 ほんと、具合悪いわけとちゃうねん、オシッコしたいだけやねん。
 財前くんは表情を変えないまま、軽くため息をついて呆れたように言う。
「熱中症や脱水は、気付かないうちになってまうから気ぃつけやって、いつも自分で言うてるやないスか」
 確かにそうやけど。
 ゆっくりと腰を落ち着けた財前くんを見ていると、彼は続けた。
「……静かな島やけど、何があるかわからへんし、先輩を一人にしたらあかんて部長に言われたんス」
 むしろ、一人になりたいんやけど!
 私は軽くため息をついて、財前くんの横顔を見た。彼は、あまり感情を表に出す方ではない。今回皆の悪ふざけが過ぎてこんなことになっちゃって、財前くん怒ってるんじゃないかなーって、ちょっと心配になった。
「ま、しゃーないスわ」
 私の心を見抜くように、彼はいつもの口癖をさらりと言った。
「白石部長率いるこのメンバーやったら、別にこんなん、なんてことないっしょ」
 私がじっと見ていても、彼はそんな視線など一向に気にする様子はなかった。淡々と話す、彼の整った横顔を私はまじまじと見つめる。
 いつも飄々としてて、天才って言われてて、クールな子だと思ってた。
 当たり前だけど、やっぱり財前くん、四天のメンバーのこと大好きなんだな。
 そういえばいっつも、『しゃーないスわ』なんて言いながら、ちゃんと皆と一緒におるもんね。
「……財前くんはオトナやからさ、こんなんなって呆れてるかと思って心配しとってん」
「しゃーないスわ」
 そして、彼はもう一度言う。
「俺の心配なんかしてる場合ちゃいますやん。……先輩こそ、一人でいなくなったり、熱中症になったりせんといてくださいよ。マネージャーに倒れられたら、ウチの皆が困るんスけど」
 そう言って、隣から私を覗き込む。財前くんはこっちを見たりしないと思っていて油断をしていたから、思い切り視線を捉えられた私はどぎまぎしてしまう。
「わかってんスか?」
 言ってることは、多分、優しいんだけど、表情がうんざりって感じ。
「……わかっとるって! てか、財前くん、私なんかのお守り任されて、ダルいやろごめんな」
 また、しゃーないスわ、って言うかなと思っていたら、彼はちょっと眉をひそめた。
「ダルい、いうか、ムカつきますねん」
 うお、予想外にストレート。さすがに毒舌な財前くんやわ。
「俺、完全に安全牌や思われてますやん」
「は?」
 私が聞き返すと、彼はまた呆れたようなため息をつく。
「俺やったら、先輩と二人にしといてもエエちゅーことスかねぇ。白石部長も、甘いスわ」
 え、なになに? どういうこと?
 その後、私がどう話しかけても、財前くんはクールでダルそうな顔のまま、すわっているばかり。
 漏れ落ちる日差しは、彼の横顔をきらきらと照らしていた。

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