● ザ・裸ネクタイコンテスト!  ●

「部長!  部長! 大変っス!」
 私は立海の二年、
 我が『ぼんのうクラブ』の働き者の部員だ。
 部室に飛び込むと、部長の 先輩が仁王立ちになって私を迎えた。

「わーっはっはっはっ! 我が野望、ついに実現したり!」

 部長の手に握られているのは、私が職員室で受け取ってきたものと同じ通知書だ。
 つまり、合同学園祭において『ぼんのうクラブ』による企画案が通ったというお知らせ。
 さて、『ぼんのうクラブ』がいかなるクラブなのか、疑問の向きもあろうのでここで説明しよう。
 まず我がクラブ活動の集大成といえる資料を提示する。
 ほら、これ。
 部室の資料棚の一番手前にどかーんと置いてある、これね。

『平成××年度 腹チラ王子写真集』

 である。
 つまり、わがぼんのうクラブにて、今年度に関東一帯で行われた中学テニスの試合を地区大会から関東大会、全国大会と追跡し、立海はもちろん、氷帝、青学、比嘉、四天宝寺と各々の学校の選手の完璧な腹チラショットをおさめた自主制作版の写真集なのだ。
 この秋、写真集が完成した時には、二人しかいない部員、 部長と私でひしと抱き合い涙したものだった。
 だって、この夏休み、一日も休まず遊びに行かず腹チラにすべてを賭けた私たちだったのだから。
 ちなみに当然ながら、我々の業績を知ったメス猫どもから、ぜひとも写真集を販売してほしいというオファーはひきもきらぬわけだが、何しろ 部長はぼんのうにまみれていながらも硬派だ。
『モデル選手に同意書を取った際に、販売は前提にしておりませんでしたから』
 と、販売の向きは一切ない。私のような凡人からすれば、この美麗でいてかゆいところに手の届くような写真集は一儲けできるのではと若干ながら思ってしまうのであるが、さすが108条からなるぼんのうクラブ活動規約を作った 部長はちがうな、と尊敬の念をもひしひしと感じるのである。
 さて、この 部長という人なのだが、何しろ立海一の美女、才色兼備の麗人と名高い人である。
 しかし学校生活のコンセプトを、すべてぼんのうに向けたライフスタイルにすると固く決心をして入学してきたため、入学してからすぐに様々な部から『是非ともうちのマネージャーに』などと誘いがあったものの、『いえ、私はテニス部の腹チラを観るのが趣味ですから』ときっぱりと断ったというのは、今でも伝説だ。
 そして 部長は、宣言通り、黙々とテニスコートの側で選手の腹チラを観察する日々を送っていたわけだが、当然キュートでかわいらしい1年生を男子テニス部の三年生も放っておくわけがなく、
『中に入って観て行ったら』
 だとか、
『しょっちゅう来てるし、うちのマネージャーになったら』
 等々ひきもきらぬ誘いがあったらしいのだが、これまた 部長は
『いえ、私は腹チラを観ることが最優先なので、マネージャーになったら腹チラに集中できないじゃないですか。ここで結構です』
 と、現在の片鱗を見せる硬派さで断ったらしい。
 そういうわけで、 部長は相当に可愛い1年だが相当に変わっている、と周囲も声をかけることを徐々にあきらめ、 部長は黙々と腹チラに集中するライフスタイルを貫き続けて約1年後。
 やってきたのが私、 との運命的な出会いである。
 立海に入学したばかりの私は、とりあえず有名なテニス部の見学に足を運んだわけだが、この辺りは空いてるなと立ったところが 先輩の隣だった。つまり 部長はその腹チラにかけるオーラのためか、周囲のメス猫たちも自ずと引き気味で、周りにぽっかりと空間ができていたわけである。入学してきたばかりだった私はそんなことは知らないので、のほほんと 先輩の隣でテニス部の見学をしていた。
 その時はちょうど真田先輩が柳生先輩とラリーをしているところだった。
 なかなかに迫力のある練習風景で、真田先輩がジャンプをして力強いスマッシュを打った時、私は思わず
『ナイス腹チラ!』
 と腹の底から声を出して拳を握ったのだ。
 すると、隣にいた 先輩が私をじっと見ていることに気づいた。
  先輩はその辺りの女子生徒と比べても明らかに抜きん出てきれいな人だったし、姿勢も良くてきりりとした目をしていて、彼女の存在に初めて気づいた私はびっくりして萎縮してしまった。こりゃ、きっとテニス部の誰かの彼女さんにちがいない、もしかして真田先輩の? とか、いろいろと頭をかけめぐって、とりあえず謝ることにした。
『す、すいません。本当はナイススマッシュって言おうとして、まちがえちゃったんです』
 などと苦しい嘘を言って。
  先輩はフンと鼻で笑って、そのまま私を見ていた。
『今の真田くんの腹チラは、どうナイスなの?』
 そして、そんな質問を投げかけてくるのだ。
 私がびっくりして顔を上げると、 先輩は依然まじめな顔。
 これは、からかわれているのか、いじめにつながる意地悪質問なのか、当時の私にはさっぱり判断がつかず、あーあこの場所が空いてると思ったら、こういうややこしい人がいるからだったのかと今更ながら気づいた自分のどん臭さを責めるばかり。
 やむを得ない。これは真面目に答えるしかない。
『あのー、真田先輩は風紀委員だからか、いつもきちんとシャツをパンツにインしておられるので、果たしてテニスの練習中はどうなのかなって思って見に来たんですけど、って、ああ別に真田先輩が特別に好きってわけじゃないんですけどね。で、練習中はやっぱりシャツはインしてないし、それどころか豪快にその見事な腹を惜しげなく見せておいでなので、あの腹チラ単体でも非常に素晴らしいんですけど、普段のかっちりした着込み方とのギャップで更にもえる、みたいなボーナス得点がついて『ナイス!』と叫んでしまったんです』
 とまあ、私は正直に真面目に返事をしたのだ。
 すると 先輩は、私をじっと見たままそのきれいな両手をがしっと私の両肩に置いてこう言ったのだ。
『ナイスぼんのう!』
 そして、その歴史的出会いの日から私と 先輩で『ぼんのうクラブ』を結成し、本格的な活動を始めたわけである。

 以上がぼんのうクラブの成り立ちと歴史なのであるが、我々の活動はなにも腹チラに限ったことではない。フクラハギであるとかニノウデであるとか、活動範囲は広い。青学の海堂くんのくるぶしなんかで熱く語り合ったこともある。あと、比嘉や六角のユニフォームのカットだとか……まあそれは置いといて。
 今回、夏が終り写真集を完成させた時点で腹チラ活動に関してはいったん区切りをつけ、秋の学園祭に向けて新たな方向性をということで、企画を出したのがこれだ。
 その名も

『ザ・裸ネクタイコンテスト』
 内容は見てそのままである。
 つまり制服の上半身、裸! そこにネクタイだけする! 誰が一番似合うかの投票を学園祭で行う!
 という、ぼんのうストレートでベタな企画である。
 裸ネクタイとはちょっとベタすぎやしませんか、と趣意書を提出する前に 部長に言ってみたのだが、『 ! 時代はベタだから! それに、基本は大事でしょ!』と、部長は一切譲らなかった。まあ、確かに裸ネクタイは基本ではあるし、基本に戻るのは悪くない、さすが 先輩だ、しかしこんな企画は通るまいと思っていたらまさかの通過なのだ。
「いやー、まさか通ると思ってませんでした。さすが 先輩の完璧な趣意書!」
 私は各部への企画通過のお知らせの用紙を眺めながら、感心してため息をついた。今回は、テニス部全国大会が大成功に終ったということで各学校の校長が気を利かせ、学園祭を合同でやりましょうという、まあひらたく言えば『学園祭の王子様』のような設定であると申せば、皆様にもわかりやすいだろう。
「当然でしょう。ぼんのう一筋15年ですからね」
「生まれた時からですか!」
 私は軽いツッコミを入れつつ、 先輩の綿密な企画書に再度目を通した。
「うーん、楽しみですねー。エントリーしていただく学校、ウチの立海、氷帝にルドルフ……。うわーつぶぞろいだなー。しかし、3校だけってのがちょっと淋しいですね。できれば私は、手塚先輩や木手先輩の裸ネクタイ姿が拝みた……」
「バッカモーン!」
 私のあけすけなぼんのうをすべて言い終わる前に、真田先輩のごとき 部長の裏拳が飛んできた。
「ぼうのうクラブ活動規約第59条! 『ぼんのうは、しばりがある方が尚もえる』 忘れたの!?」
 そして、 部長の怒鳴り声。
「ううう……痛いっす、 部長……」
「いい? ここにエントリーしている三校はいずれも制服にネクタイがある学校ばかり! そりゃあ私だって手塚くんや木手くんの裸ネクタイ姿は見たい! 死ぬほど見たい! 何を置いても見たい! けどね、 ! 青学や比嘉の制服にネクタイはないの! ネクタイがない学校なのに、裸の上半身にネクタイをあしらうというのは、それはコスプレ! そりゃー、コスプレだったら何でもありでしょうよ! でも違うの! 制服にネクタイのある学校だったら、何かの間違いでうっかり、シャツを着る前にネクタイしちゃったとか、実際にシチュエーションとしてありそうなわけじゃないの。そこがもえるわけ! いい? 私たちは素人じゃないんだから、なんでもかんでも妄想すりゃいいってもんじゃないのよ! そりゃあ私だって、サエさんや亜久津くんや白石くんや伊武くんや……ああもう言い出したらきりがないくらいに裸ネクタイ見たい子は他にもいるけど、あえて『制服にネクタイのあるとこだけ』というしばりが、重要なのよ!」
部長、台詞が長過ぎる上に、暑苦しいです……。それに私、その59条の規約、なんか『SMもまたよし』みたいな意味だとはきちがえていました……」
 思わず言うと、 部長の裏拳がもう一度飛んで来た。
「さて、こうしちゃいられないわ。三校のテニス部の選手に正式な参加依頼の書面を出して、そして会場に集める一般審査員の募集、会場の設定、忙しいわよ、 !」
 張り切った 部長の声に、うずくまっていた私も立ち上がった。
「そうですね、頑張りましょう! ネクコン、ぜひとも成功させましょう!」
 拳を天井につきあげた私に、再度 部長の裏拳が飛んで来た。
「ぼんのうクラブ活動規約第23条『なんでもかんでも略さない』! そんな事言ってるから、わがぼんのうクラブが『ぼんクラ』なんて陰口をたたかれてしまうのよ!」
「……うう……すいません。と、とにかく、盛り上がっていきましょう!」
 さて、気を取り直していこう。油断せずにいこう。
 一般審査員として参加してくださるメス猫の皆さんは、以下の会場にお進みください。
 会場では、 部長が審査委員長、そしてわたくし がアシスタントとしてメス猫の皆様をご案内いたします。

↓会場にレッツゴー!
氷帝学園テニス部 裸ネクタイコンテスト会場
聖ルドルフ学園テニス部 裸ネクタイコンテスト会場
立海大附属中テニス部 裸ネクタイコンテスト会場  (準備中)

↓投票だけの方はこちらへ!(三校全員のお披露目終了時に設置します)
氷帝国学園投票所
聖ルドルフ学園投票所
立海大附属投票所



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